喉頭がんとカセットテープ

0-63勤務していた会社のとなりに古い文化住宅があり、そこのおばあちゃんが、しょっちゅう助けを求めてこられてました。

2階からの水漏れとか、トイレが詰まったとか、お風呂の湯沸かしの使い方がわからんとか、ファックスの紙が切れたとか、ガスコンロの火がつかないとか、猫が入ってきたとか、実にいろいろです。

いつも夜食の差入れとかしてくれるから、断りきれないのですねえ。こういう利用者との密着は介護事業所としては好ましくないのですが、まあそういうこともありますね。

いつも電話で呼び出してくれるのですが、多くの社員は聴きとれません。 昔、喉頭がんの手術をして、喉に穴があいているので息が漏れるのです。 ひゅーひゅー言いながら声を出されるので、慣れないと聞きとれないんです。私は慣れてたんで、対応はいつも私でした。

電話で呼び出しがあって、こんどはなんじゃーと思いながらいってみると、古いカセットデッキが壊れたということでした。

カセットテープのテープがびやや~と伸びていました。古くて劣化して、テープのくるくる回るところの爪が砕けてしまっていて空回りしたんですね。

「このテープはもうあかんねえ。」 といいましたら、「ほかのテーフはどーひゃろなー?」 と心配されたので、試しに大丈夫そうなほかのカセットテープをデッキに入れて再生ボタンを押してみました。

好きな杉良太郎の歌かなーと思っていたら、なんか、男性の下手なアナウンスの声が聞こえてきました。パチンコ屋の案内みたいです。

なんやこれ? とおもってたら、おばあちゃんが仏壇にある、亡くなった旦那さんの写真を指さしました。

「あれー、いい声してたんですねー。」 といえば、おばあちゃんが自慢げにうなずいておりました。

シーンが変わって、なんだか酔っ払いが歌っているような女性の声が聞こえてきました。

おばあちゃんがあわてて停止ボタンを押します。 もしかして、おばあちゃんの声? 声がちゃんと出ていた時の声なんですね。 いやー、きいてみようよ! と再生ボタンをポチ!

なんだか気持よさげに歌っています。 後ろの方で旦那さんらしき笑い声がきこえておりました。

「よっぱらってたんひゃ。」

いつもヤタケタなおばあちゃんが恥ずかしそうに停止ボタンを押そうとします。

「いやいや、もうちょっと聞きましょう。」 「いやや、はすかひい。」

このカセットテープ、おばあちゃんの幸せの記録なんですね。 旦那さんがいて、声が出ていたころの。

でも、今でも、近所の人がよくしてくれるから幸せなんだそうです。

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